
1はじめに
4月28日、私たちはソウル市内にある「女性未来センター」を訪れ、韓国女性運動の中核を担う「韓国女性団体連合(以下、女性連合)」の皆さんと交流しました。この建物は市民の募金によって建設されたもので、現在は13もの女性・人権団体が拠点を置く、韓国のジェンダー平等運動の象徴的な場所です。今回の訪問にあたっては、事前に日本側から4つの主要な質問事項を送り、当日はそれに対する詳細な回答を軸に、両国の現状と課題について対話を行いました。
2日本側からの活動報告(なかまユニオンの取り組み)

交流会の冒頭、なかまユニオンから、日本の労働現場におけるジェンダー課題と組合の取り組みについて報告を行いました。 日本では依然として、男性の正社員を中心とした企業内組合が主流ですが、地域労働組合であるなかまユニオンでは、ジェンダー問題を活動の柱の一つに据えています。報告では特に以下の3点が強調されました。
- セクシュアルハラスメントとの闘い:大阪の「奥誠環境商事」での社長によるわいせつ行為やハラスメントに対する闘争事例が紹介されました。会社による隠蔽や被害者への不当な降格を許さず、謝罪と対策を求めて徹底的に闘う姿勢が示されました。
- 「アップデート講座」による学習:4年前から、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)や性的マイノリティへの理解を深める講座を継続しており、組織自体の変革を図っています。
- 誰もが参加しやすいルール作り:性的マイノリティの当事者を含む多様な組合員が安心して発言できるよう、人格否定を禁じる「グランドルール」の策定に取り組んでいることが報告されました。
3韓国女性団体連合からの回答と現状報告

続いて、事前に送付した質問事項に対し、女性連合のヤン・イヒョンギョンさんを中心に詳細な回答をいただきました。
⑴ 女性団体連合の最近の運動における重点課題
韓国は去年の6月に新政府になり、ここ数年、女性政策やジェンダー平等の問題が後退したり見送られたりすることが多かったので、今それを加速させることが大事な時期だと判断しています。女性連合は以下の5つの課題を重点的に掲げています。
① 男女の賃金格差の解消:韓国はOECD諸国の中で男女賃金格差が最も大きく、深刻な課題です。これを是正するため、企業の会計資料などを公開させ、格差の実態を明らかにする「性平等賃金公示制度」の実現を目指しています。
② 安全な妊娠中絶のための権利保障:2019年の憲法裁判所による堕胎罪の「憲法不合致」判断後も、代替となる法律が未整備のままです。女性の自己決定権と健康を守るための立法活動を急いでいます。
③ 差別禁止法の制定:女性だけでなく、性的マイノリティや外国人労働者など、あらゆる社会的弱者に対する差別と嫌悪を根絶するための法的基盤作りを重視しています。
④ 女性の政治的代表性の拡大:韓国の政治は男性に過大代表されており、6月の統一地方選挙などを通じて、意思決定の場への女性進出を強力に推進しています。
⑤ AIと人権・ジェンダー:国家が推進するAI政策において、議論が技術や産業の発展に偏っておりジェンダーや人権の観点が欠落しています。マイノリティの人権が保障され、差別が再生産されないような運動を重点的に行っています。韓国では新政権が「AI三大強国(米・中・韓)」を掲げています。介護の面でもフィジカルAIを投入する動きがありますが、介護は女性労働者が多いため、彼女たちの職場の問題にも関わってきます。具体的には、アルゴリズムによる差別(Siriの初期設定が女性でしたが、「秘書は女性」という偏見の反映。アマゾンでの採用AIの女性差別など)や、ディープフェイクを用いた性暴力への対策、自動化に伴う女性労働者の雇用不安などの問題に取り組んでいます。
⑵ TERF(トランス排除的なラジカル・フェミニスト)に対する方針
女性連合の指針は極めて明確であり、「誰も排除しない」ことをモットーとしています。トランスジェンダーを含むすべての女性を包含する立場を取っており、排除を標榜する団体とは連携や共同行動を行わないことを徹底しています。国際女性デーの集会においても、この包括的な方針に賛同する団体のみが参加する仕組みを整えています。

⑶ 原油・ナフサ供給不安と物価高騰への対応
資源価格の高騰は韓国市民の生活にも直撃しています。政府は低所得層への支援金や所得下位70%への給付などを行っていますが、現場では混乱も生じています。
- 生活への影響:自家用車の利用制限が促されていますが、公共交通が不十分な地方や営業職、コストを自ら負担するフリーランスの運送労働者が大きな打撃を受けています。
- 物資の不足:ナフサの供給不安が「ゴミ袋の不足」という噂となり、スーパーでの買い占めや購入制限が起きるなど、市民生活に心理的な不安も広がっています。
⑷ 日本の「高市政権」に対する視点
韓国側からは、日本の高市(早苗)政権(※注:交流時点での日本の政治状況に基づく質問)について、世襲ではない女性リーダーという新鮮なイメージで当初は関心を持たれていたという指摘がありました。しかし、実態としては「女性の安倍」と評されるような強硬な右翼活動に終始しており、平和運動の立場からは非常に危惧しているとの見解が示されました。 これに対し、日本側からは、彼女が右翼票を獲得するための「ビジネス右翼」的な側面を持っていることや、宣伝活動に特化して議論を避ける手法などが報告されました。
特筆すべきは、日本の市民がこうした状況に対して危機感を持ち、韓国の「キャンドル革命」などに影響を受けたペンライトや創意工夫のあるスタイルで、再び街頭での抗議活動(反戦・平和運動)を活発化させている点です。韓国側も、報道されない日本の市民運動の広がり(国会前での数万人規模の集会など)に強い関心を寄せていました。
4補足:極右勢力の伸長と宗教・AIの影響
追加の質疑応答では、韓国における10代・20代の若者層が、既存の「民主化世代」への反発から極右的な動きを支持する傾向にあるという深刻な分析が共有されました。また、保守的なキリスト教勢力が中絶反対や性的マイノリティ差別と結びついている現状も語られました。さらに、AIの問題では、韓国のチャットボット「イルダ」が差別発言で短期間に廃止された例を引き合いに、テクノロジーに潜む偏見に対して労働・女性運動がより敏感であるべきだという認識で一致しました。
5結びに代えて
今回の交流を通じて、日韓両国の女性運動が直面している課題(賃金格差、ハラスメント、バックラッシュ、テクノロジーによる差別)が驚くほど共通していることを再確認しました。同時に、韓国の粘り強い運動スタイルが日本の市民運動に新たな活力(ペンライトの使用や文化的なデモの手法など)を与えていることも明らかになりました。
最後に女性団体連合の事務所を拝見しましたが、専従職員が何人もいる活気あふれる事務所でした。

後刻、事務局長のイム・ソニさんから、「今日は特に日本国内の平和集会の話を聞いて、とても感銘を受けました。 いつか機会があれば、もう少し詳しく聞きたいです~~!」との感想をいただきました。







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