
韓国性的少数者連合組織「虹行動」・なかまユニオン 交流会 詳細報告
1.交流会開催の概要
2026年4月29日、韓国の性的少数者(LGBTQ+)の人権団体が結集する連帯組織「虹行動(무지개행동)」と、日本の地域合同労組「なかまユニオン」との間で交流会が開催されました。約108分にわたり行われた本会議には、虹行動から事務局長の権順武(クォン・スンム)氏、共同代表の朴韓(パク・ハン)氏らが参加し、なかまユニオンからは委員長の井手窪啓一、ジェンダー担当ら4名が参加しました。
2.韓国「虹行動」からの活動報告

(1)組織の成り立ちと歴史 虹行動の発足の契機は、2007年に当時の韓国政府が差別禁止法案を作成した際の出来事に遡ります。法案には当初「性的指向」を含む7つの差別禁止事由が含まれていましたが、保守的なキリスト教系団体の強い反対圧力を受け、政府がこれらの項目を削除する事態が発生しました。この政府の動きに抗議するため、当事者や支援者が「性的少数者差別阻止緊急行動」という枠組みを結成し、宣伝活動や記者会見、デモ集会を展開しました。その後も継続的な抗議と連帯の枠組みが必要であるという認識から、2008年に常設の連帯組織として「虹行動」が正式に発足しました。約20年にわたり連帯を基盤に活動を続け、近年では常勤の事務局を設置し、共同代表や事務局長を中心に組織の安定的な運営と実行力の強化を図っています。
(2)参加団体と活動内容 現在、虹行動には約49の性的少数者人権団体やグループが参加しています。参加団体の構成は大きく5つのカテゴリーに分類されます。
- ゲイ、レズビアン、トランスジェンダーなどの当事者コミュニティ団体。
- 人権映画祭の開催やドキュメンタリー映画制作を行う文化・芸術関連の団体。
- 韓国仏教の最大宗派である曹渓宗の社会労働委員会や、キリスト教系の「虹のイエス」などの宗教系団体。
- 緑の党、労働党、正義党など、革新系政党内に設けられた性的マイノリティ委員会のメンバー。
- 人権問題に取り組む弁護士の会。
主な活動内容は、個別団体では対応が難しい法整備や制度改革への取り組みを中心としています。具体的には、立法の推進、政府による人権侵害への抗議、訴訟対応のほか、毎年5月17日の「性的マイノリティ平等の日(IDAHOBIT)」に合わせた大規模なデモ集会の企画、人権フォーラムを通じた議論形成などを行っています。また、加盟団体の活動家の能力向上やネットワーク構築を目的とした「活動家大会」も毎年開催しています。最近では、ユン・ソンニョル大統領の退陣と社会改革を求める市民社会約3000団体の連帯枠組みにおいて、虹行動のメンバーが女性・マイノリティ部門を代表して共同議長を務めるなど、社会運動全体の中でも存在感を示しています。
(3)2014年ソウル市庁占拠籠城(運動の転換点) 虹行動の歴史において非常に象徴的な出来事として、2014年のソウル市庁舎ロビー占拠事件が挙げられました。当時、市民運動出身であった朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長は、選挙公約としてソウル市民の人権の基本原則を定めた「ソウル市民人権憲章」の制定を掲げていました。市民委員会での投票の結果、憲章に「性的指向」を含めることが決定されましたが、保守系キリスト教の猛烈な反対に直面したパク市長は、憲章の発表自体を白紙撤回(公表拒否)してしまいました。 これに抗議するため、虹行動は12月6日から11日までの6日間、ソウル市庁のロビーを占拠し、座り込みの籠城を実施しました。この闘争には、労働組合、女性団体、障害者団体など多様な市民社会が連帯して参加しました。結果として憲章の発表には至りませんでしたが、パク市長からの謝罪を引き出すことに成功しました。この経験は、性的少数者運動が社会全体に影響力を持つ連帯の輪を広げられることを証明し、政府や社会に対して人権保障を求める大きな契機となりました。
(4)現在の3大目標と直面する課題 虹行動が現在掲げている最大の課題は、法や制度の変革を通じた実質的な平等の実現であり、以下の3つを核心的な目標としています。
- 包括的差別禁止法の制定。
- 同性婚の法制化(婚姻平等)。
- トランスジェンダーの性別認定に関する法整備、さらに差別やヘイトが続く社会環境を克服し、社会的支持を拡大すること。
これらの目標を実現する上で最大の障壁となっているのが、保守的なプロテスタント系勢力です。韓国では人口の約16%がプロテスタントであり、大型教会は10万人規模の動員力と票を持つため、宗教を信仰していない政治家でさえも教会への挨拶を欠かせないほど、政府や国会に対して絶大な政治的影響力を持っています。現在の国務総理も公然と「同性愛反対」を明言している状況です。 この壁を乗り越えるため、虹行動は保守層と直接対決するだけでなく、彼らを社会的に孤立させる戦略をとっています。具体的には、大衆的なキャンペーンや宣伝活動を通じて、一般市民からの支持を拡大することに重点を置いています。
3.なかまユニオンからの活動報告
(1)誰でも入れる労働組合としてのスタンス なかまユニオンは企業内労組ではなく、地域の誰でも一人から加入できる労働組合です。男性の正社員を中心としてきた従来の労働運動の問題点を乗り越え、非正規雇用の労働者、女性、そして性的マイノリティの組合員が在籍しており、「多様な人々が利用できる組合」であることを理念に掲げています。現在、組合員数は約400名に達しており、その約9割がインターネットのホームページ経由で加入しています。近年では、AI(ChatGPTやGemini)に相談した結果「なかまユニオンが良い」と推奨されて加入に至るケースも複数生まれています

(2)セクシュアルハラスメントとの闘い ジェンダー担当より、具体的な取り組みとしてセクハラ問題への対応が報告されました。日本では社内でハラスメントが起きても、加害者が上司である場合などに会社ぐるみで隠蔽されるケースが多発しています。 一例として、大阪の四ツ橋にある「音声環境商事」という企業での事件が挙げられました。この会社では、社長が大卒の新卒女性社員に対してわいせつ行為を行うという深刻なハラスメントが発生しました。被害者が会社に相談したにもかかわらず、相談窓口が加害者である社長に情報を漏洩し、さらに被害者を降格させるという極めて不誠実な対応をとりました。なかまユニオンは、この不当な降格の撤回、実効性のあるハラスメント対策の実施、そして謝罪を求めて、楽器やマイクを用いた社前での街宣行動などを繰り返し行い、社会的に責任を追及しています。セクハラ被害者は精神疾患を発症するほど深く傷つくことが多いため、当事者が納得できるまでじっくりと対話を行い、闘い方を決めていく姿勢を重視しています。
(3)ジェンダー学習とグランドルール作り なかまユニオンでは4年前から「アップデート講座」と題し、無意識のジェンダーバイアスやLGBTQ+に関する知識、ハラスメントのない組織づくりについて継続的に学習会を実施しています。昨年は韓国女性団体連合のメンバーを大阪に招き、大統領弾劾行動において女性団体が果たした役割や、集会内でのハラスメント防止策について学ぶ機会を持ちました。 また、性的マイノリティの組合員からの問題提起を受け、組合内の集会や交流会における「グランドルール」の制定を進めています。労働組合としての厳しい意見交換は必要不可欠ですが、それと「相手の人格を否定すること」は明確に異なるという共通認識を醸成するための対話が重ねられています。
今後は、東京のプレカリアートユニオンからトランスジェンダー当事者の組合員を招いた学習会や、大阪の「レインボーフェスタ」への出展も計画しています。
4.質疑応答と意見交換(両国の社会状況の比較)
(1)社会の保守化と若者の意識の二極化 日本側の政治状況について、高市政権の誕生により社会が保守化しているのではないかという質問に対し、なかまユニオン側からは「得票率や小選挙区制の歪みによるもので、国民全体が保守化したというよりは、野党の分裂により投票先を失った結果である」との分析が示されました。保守化というよりは、社会問題に関心を持ちデモに参加する層と、距離を置いて自己防衛に走る層との「二極化」が進んでいるとの実感が語られました。
(2)トランスジェンダーへのヘイト問題 韓国では近年、20代の若い女性層の間で「差別禁止法が制定されれば、男性が女性のふりをして女子トイレに侵入してくる」といったトランスジェンダーへの敵対感が高まっていることが報告されました。日本のトランスジェンダー当事者の参加者も、最高裁判決以降に増大したヘイトスピーチに対し、「SNS(X)を見ないようにして身を守る」「犯罪を起こすのは当人の問題であり、トランスジェンダーが悪いわけではないと周囲に伝える」といった自衛策を取らざるを得ず、日常的にトイレを利用する際にも常に緊張を強いられている現状が共有されました。
(3)社会運動におけるジェンダー意識の差 日本側から、韓国の社会運動団体や政党がジェンダー問題に対して進歩的である(例:希望連帯本部に性中立トイレが設置されている等)理由について質問が出されました。虹行動側は、これには主に二つの理由があると回答しました。 第一に、韓国の社会運動全体で若手活動家の新規参入が減少している中、性的マイノリティやフェミニズムに関心を持つ若者の割合は増えているため、運動側が彼らを積極的に受け入れているという構造的な背景です。第二に、会議の前に平等に関する規則を読み上げたり、ジェンダー教育を義務付けるといった「意識的な努力」を組織として行っている点です。
(4)韓国社会の厳しい現実と運動の意義 社会運動の場では受け入れられつつあるものの、国際的な調査データでは、韓国の一般社会における性的マイノリティへの理解度は日本よりも低く、敵対感が高いという厳しい現実も語られました。一般企業で自身のアイデンティティを公表して働くことはほぼ不可能であり、ソウル市役所に性中立トイレを設置する計画もキリスト教団体の反対で頓挫しています。 性的マイノリティの自殺率が一般の8倍に上るという危機的な状況の中、「社会の変化が見えないと人々は絶望してしまう」と虹行動の参加者は語りました。現在は以前の政権よりも対話が可能な状況にあるため、「この政権の間に一つでも具体的な成果(制度的変化)を出し、コミュニティに希望を示すこと」を最重要の使命として活動を続けているという強い決意が示されました。
5.まとめ
今回の交流会を通じて、日韓両国の社会構造や政治的背景には違いがあるものの、保守的なバックラッシュやヘイトスピーチ、職場での差別といった共通の困難に直面していることが浮き彫りになりました。韓国「虹行動」の広範な社会連帯を通じた法整備への果敢な挑戦と、「なかまユニオン」の草の根からのハラスメント撲滅やジェンダー意識改革の取り組みは、互いに深く学び合えるものでした。最後は、将来的な大阪での対面交流会の実現を誓い合い、連帯を深める形で閉会となりました。








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