教職員の闘い

「教員追い出し研修」から生還

大阪市では、「指導が不適切である教員」と判定された教員が、「ステップアップ研修」に送りこまれるという制度があります。その実態はやめさせることが目的とも言える制度です。2020年4月にこの研修に送り込まれた小学校教員のNさんは、今年1月6日、2年9ヶ月ぶりに学校現場への生還を果たしました。その報告です。

46人が免職や退職

大阪市のステップアップ研修は、指導改善研修が2007年7月に法律(教育公務員特例法第25条の2)で定められる前の2003年から始められ、これまでに58人が研修対象者とされています(2023年1月時点)。これまでに実施された研修の成果は惨憺たるものです。研修の後、現場に復帰した教員11人。分限免職処分を受けた教員6人。自ら退職した教員40人。現在研修中の教員1人という状況です。生還率わずか19%。まさに、「やめさせることが目的」と言うべき研修です。

児童生徒や同僚から分離

校長から教育委員会に対し「指導に課題がある教員」として名前をあげられた教員には、教育センターの担当指導員が配置され、行動が記録され、「指導が不適切である教員」に仕立て上げられていくのです。「ステップアップ研修」は、4か月を1期とし、原則1年(3期)の間に指導力が改善されたとされなければ分限免職になるという制度です。この研修制度がはらむ最大の人権侵害は、児童生徒や職場の同僚とのつながり・かかわりを完全に絶つことで対象者を孤立させ、現場復帰への思いをことごとく萎えさせることにあります。また、勤務の態様が自己の意に沿わない教員に対し「ステップアップ研修の対象者にするぞ」と脅迫するパワハラ校長も存在します。

あわや分限免職

Nさんの場合も、職場の同僚が、当時の校長に対し「指導不適切教員認定申請自体おかしい」と声をあげていたにも関わらず、校長と教育センターの指導員によって、「教員としての基本的な教育的愛情に欠ける」「教科等の指導を適切に行えない」教員に仕立て上げられ、ステップアップ研修に送り込まれました。ステップアップ研修の3期目には、「このままなら分限免職」という警告書が発出されました。

あきらめず、復帰へ

それに対し、Nさんは、指導不適切教員認定過程やステップアップ研修のあり方に対して異議を申し立てる弁明書を提出しました。市民団体からも「Nさんをクビにするな」の要請書が提出されました。当組合(教職員なかまユニオン)からも、病気療養休職からの復帰時に配慮を求める要請や、研修内容のパワハラを指摘し、改善の要求などを行ってきました。このような行動・支援が功を奏し、ステップアップ研修制度開始以降で初めて、1年を超えて、第4期への研修期間延長を決定させ、職場復帰につなげることができました。

本来、教育力とは「職場の教育力」のはずです。個々の教員に不十分なところがあるのは当たり前で、「協働の実践の中で、お互いにアドバイスをし合いながら不十分なところを改善し、指導力を向上させていく」というのが、本来の「研修」、つまり「研究」と「修養」のあり方です。ステップアップ研修制度は、公的学校教育にとって「百害あって一利なし」の制度であり、その制度の下で人権を侵害され、苦しんできた仲間が大勢います。教職員なかまユニオンは、指導改善研修制度に対して声をあげたいと思う方々の力になりたいと考えています。

N組合員からの一言

 今般、現場復帰を実現できたのは、ひとえに、心折れることを食い止め、励まし、支え続けてくださった方々のおかげだと感謝しています。特に、1年間の休職から研修に復帰するにあたって、教職員なかまユニオンが市教委に対して健康状態への配慮を強く要請してくれたことで、安心して研修に復帰し、研修の場に通い続けることができました。分限免職になるくらいならと、心ならずも自主退職された方々が本当に気の毒です。もしも、こうした方々が、わたしと同じように現場復帰に向けての支援を得られていたならば、再び、同僚教職員とともに新たな教育活動に励めたはずと思わずにはいられません。同じ思いをされる方が今後現れないようにと願うばかりです。

 どうぞ、教職員なかまユニオンに相談&情報をお寄せください。

メール nakama_kyoiku@yahoo.co.jp 電話080-6206-4971

Nさん職場復帰までの経過

2018年4月 U小学校4年目 M校長がNさんを特別支援学級主任に任命
2018年6月 抑うつ症と適応障害で休職相当の診断書⇒M校長「サポートする」で、勤務継続
2018年10月 「特別支援教育に関する訪問研修」打診⇒サポートとの認識で受け入れ
以後、授業観察継続
2019年4月 変更を申し出ていたが、事前の打診、本人の納得なく、再び、特別支援学級主任に
2019年10月 「今回の授業観察は指導改善研修規則によるもの」(首席指導主事から)M校長からの事前説明は一切なし
2020年2月6日 M校長が市教委に「指導が不適切である教員に係る申請書」提出
2020年2月20日 Nさん「意見書」提出(職場同僚の意見含む)
2020年2月25日 意見書面談(U小学校学校訪問時記録) 
2020年3月16日 令和元年度第1回指導力向上支援・判定会議
2020年3月16日 「指導が不適切である教員の認定及びステップアップ研修の決定並び
に関係者への通知について」起案
2020年3月19日 決裁
2020年4月1日 ステップアップ研修第1期(7月31日まで)
2020年8月1日 ステップアップ研修第2期(11月30日まで 途中病気休暇等 2021年
2月16日まで)
2021年2月17日 ステップアップ研修第3期(2021年6月16日まで 2021年3月22 
日から病気休職)
2022年3月22日 ステップアップ研修に復帰(第3期ののこり 7月1日まで)
2022年3月25日 警告書
2022年4月7日 弁明書提出
2022年6月6日 意見書提出
2022年6月8日 判定会議⇒第4期(7.2~11.1⇒途中休職のため2023.1.5まで)への延
長決定(6月22日決裁)大阪市初の事例
2022年7月2日 ステップアップ研修第4期(11月1日まで 途中休職 2023.1.5まで)
2022年12月26日 2023年1月6日からの職場(U小学校)復帰が伝えられる
2023年1月6日 U小学校に復帰

支援の取組み

◆U小学校の同僚教職員…指導不適切教員に認定することのないようにとの意見書(2020年2月)
分限免職にしないことを求める意見書(2022年6月 保護者2名からも)
◆改憲・戦争阻止大行進大阪市…ステップアップ研修廃止署名、集会、市教委への要請・協議、ビラまき
◆大阪市教育員会関係審議会の適正運営を実現する会(Nさんを職場にもどす会)…2021.10.24第1回集会、3度の要請書提出⇒市教委協議、Nさんをクビにするな!ビラ作成(2枚)ビラまき(大阪メトロ喜連瓜破駅周辺や教育センター前)、職場にもどせ!要望書提出(2022年6月)
◆教職員なかまユニオン…ステップアップ研修復帰時(2022年3月)に配慮を求める要請、パワハラ研修が原因での休職時(2022年8月)に抗議・要請、それぞれ要請書(要求書)提出と担当部局(教職員資質向上担当)課長代理に面談・要請
◆大阪市教育を考えるネットワーク(名田校長)、鈴木大裕氏と関連の会、子どもに『教育への権利』を!大阪教育研究会 等…状況の理解・共有、励まし
◆大阪市教…定期交渉で要求項目にして、要請。

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