支援・共闘・連帯活動

労働委員会命令の遵守に一歩前進

労働委員会に救済を申し立て、命令が履行されない問題

 労働組合の活動の権利が侵害されたり、労働組合に加入したことを理由として経営者から不利益な取り扱いを受けたとき、労働委員会に救済を申し立てます。労働委員会は、審理の後会社に対して命令を交付します。

 労働委員会の命令に不服がある場合は、中央労働委員会に対して再審査の申し立てをすることができます。この場合は、再審査をしたとしても命令の履行義務が停止することはありません。命令を受けた使用者は命令を履行する義務があります。

 ところが、初審の命令を履行しなくても罰金などの罰則がないことから、命令を受けた使用者が命令を履行しないまま再審査を申し立てる例が頻出しています。このような使用者の行為は違法であり、許さるものではありません。

おおさかユニオンネットワークが改善を申入れ

 関西の闘う労働組合のネットワークであるおおさかユニオンネットワークは、労働委員会に救済を申し立てることも多く、命令が出ても履行されない問題について、2013年9月12日大阪府労働委員会に対して改善を求める『申入書』を提出し交渉してきました。これに対する労働委員会側の回答が12月14日に示されました。

労働委員会が新たな対応

 12月14日11時30分から、大阪府労働委員会あっせん室で労働委員会事務局審査課長補佐以下3名と西山直洋代表以下おおさかユニオンネットワーク各労組代表との面談が行われました。

9月12日付けで提出した『申入書』に対する回答が示され、応答が行われました。

 労働委員会側の回答としては、1、9月12日付申入書については、全公益委員参与委員に配布をした。2,対応を検討した結果、(9月12日の交渉時で提案があったように)命令を交付郵送する際に、『命令に係る留意事項』という書面を同封することにし、すでに実行しています。ということでした。

 書面の内容は、

命令に係る留意事項

大阪府労働委員会

 命令書の交付を受けた使用者は、下記条項のとおり『遅滞なくその命令を履行しなければならない』とされているところ、命令の効力は、再審査申立てや取消訴訟の提起により停止されません(労働組合法第27条の15第1項、行政訴訟法第25条第1項)ので、ご留意ください。【参考】労働委員会規則第45条第1項 「(略)救済の全部又は一部を認容する命令につき命令書の写しが交付されたときは、使用者は、遅滞なくその命令を履行しなければならない。」 

 この回答は、労働委員会の対応が、わずかですが一歩前進したと言えるものです。

引き続く課題

 これだけでは問題解決したといえるものではありません。ユニオンネット参加者からは、不当労働行為企業は大阪府の指名競争入札に参加させないという知事と労働組合との確認(写真)があるが、どのような手続きを経て参加させないという措置が取られるのかと質問しました。これに対しては、府労委側から、労働委員会から出された命令については、すべて知事部局に連絡しており、競争入札から排除するか否かの判断をするのは、知事部局である。その判断にあたっては、再審査が申し立てられた事件は除外される。

 改めてユニオンネット側から、命令交付後履行状況を把握しているのか、質問し、これについては、府労委は、把握しておらず、再審査があった段階でそのことを知るという実態であることが明らかになりました。

 さらに、ユニオンネット側からは、「救済命令不履行が、『労働法制の根本を否定する違法不当なもの』であり、強度の違法性を有する行為である」との大阪高裁判決を再度確認し、初審命令を履行するように強く経営側に働きかけるように発言がありました。

 最終的に、①命令交付時だけでなく、審問のあらゆる段階を通じて、初審命令を履行する義務があることを経営側に確認していただくこと、②また、大阪高裁判決も経営側に周知していただくこと、③命令交付後の履行状況について、会社に報告させること。④以降も、ユニオンネットワークと府労委事務局との懇談を継続して開催していただくことを申入れ、府労委側も検討を約束しました。

資料:9月12日付『申入書』

2023年 9月12日

大阪府労働委員会
 会長 小林 正啓 

大阪市北区天満1-6-8六甲天満ビル201号室
電話・ファックス 06-6355-3101
                     おおさかユニオンネットワーク
                      代表  西山 直洋

申 入 書

1 おおさかユニオンネットワークは、不当労働行為の救済を命じる初審命令を履行しないばかりか、不履行を堂々と開き直る使用者が後を絶たない事態について、次のとおり貴労働委員会に対し申し入れる。


2 そもそも、団結権侵害行為たる不当労働行為について、労働委員会による
救済制度が設けられた趣旨を最高裁判所は次のように判示している。
「労働委員会の救済命令制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目
的とし、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した(労働組合)法7条の規定の実効性を担保するために設けられたものである」。労働組合「法が、右禁止規定の実効性を担保するために、使用者の右規定違反行為に対して労働委員会という行政機関による救済命令の方法を採用したのは、使用者による組合活動侵害行為によって生じた状態を右命令によって直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るとともに、使用者の多様な不当労働行為に対してあらかじめその是正措置の内容を具体的に特定しておくことが困難かつ不適当であるため、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限をゆだねる趣旨に出たものと解される。」(第二鳩タクシー事件・最高裁1977年(昭和52年)2月23日大法廷判決)


3 つまり、団結権侵害を是正し、その迅速な回復を図るのが趣旨である。したがって、労働委員会命令は、直ちに履行されなければ、団結権侵害の迅速な回復を図る趣旨に合致しない。
そこで、現行法上、労働委員会の救済命令は直ちに効力を発し、行政処分としていわゆる「公定力」を有するものとされ、その確定以前であっても、使用者にはそれを履行する義務があるのである。

4 このことは、労働組合法等の法令の明文規定や裁判例、行政解釈によっても明らかである。すなわち、
① 労働委員会の救済命令等は、その命令書の「交付の日から効力を生ずる」
(労働組合法第27条の12第4項)、
② 「使用者は、遅滞なくその命令を履行しなければならない」
(労働委員会規則第45条第1項)、
③ 中央労働委員会への再審査の「申立ては、救済命令等の効力を停止せず、救済命令等は、中央労働委員会が第25条第2項の規定による再審査の結果、これを取り消し、又は変更したときは、その効力を失う」
(労働組合法第27条の15第1項)、
④ 裁判所への「処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない」(行政事件訴訟法第25条第1項)。


5 東京地方裁判所の1969年(昭和44年)9月26日付け判決(行政事件裁判例集20巻89号1141頁)は次のように述べている。
「行政処分はその適法性について争いがあっても、権限ある行政庁によって取り消され、あるいは固有の司法作用による確定的法律判断によってその違法であることが確定されるまでは、一応適法なものとして取り扱われる、いわゆる公定力を有」する(同上1159頁)。
また、上記事件における被告国側の答弁でも、「行政処分は適法、違法について争いがあっても司法審査によって終局的に違法と確定されて効力を失うまでは一応適法なものとして取り扱われ、自力執行力を有するのである」(同上1152頁)と述べている。


6 当時の衆議院議員川田悦子の質問主意書に対する当時の内閣総理大臣小泉純一郎名の答弁書及び当時の衆議院議員服部良一の質問主意書に対する当時の内閣総理大臣野田佳彦名の答弁書は、労働組合法第27条の12に基づく救済命令等は、その交付の日から効力を生ずることから、「救済命令等を命じられた使用者は、その確定に至る前においても当該救済命令等を履行しなければならない行政上の義務を負うことになる」(2003年(平成15年)6月6日内閣衆質第58号、2012年(平成24年)6月29日内閣衆質180第301号)旨答えている。


7 さらには、大阪高等裁判所は、2007年(平成19年)9月26日付け判決(平成18年(ネ)第1211号事件・資料1(最高裁判所への使用者側の上告が棄却され、上告受理申立てが不受理となって確定・資料2))において、次のように、初審命令の履行義務を明確に指摘するばかりか、履行しない使用者の態度を「労働法制の根本を否定する違法、不当なもの」と厳しく論難している。
「被控訴人は、」「本件救済命令及び中労委の履行勧告を無視し、本件団交拒否に及んでいるものである。もとより、」都道府県「労働委員会の救済命令に関しては、これに異を唱えて再審査を申立て、或いは救済命令の取消訴訟を提起することは被控訴人の法的権利である。しかしながら、救済命令の実効性の確保という観点から設けられた労働組合法27条の15第1項ただし書き」及び行政事件訴訟法第25条第1項「によれば、」都道府県「労働委員会の救済命令に関しては、再審査や取消訴訟の提起に命令の効力を停止する効果はない。従って、命令を受けた当事者がその命令に従うべきことは、命令に関しての履行確保規定や命令違反に対する制裁規定の有無にかかわらず、不当労働行為救済制度として定められた労働組合法上の義務であると言わねばならない。しかるに、被控訴人は一貫して府労委による本件救済命令や中労委の履行勧告に従わず、これを無視し続けているものであり、このような被控訴人の態度は、労働法制の根本を否定する違法、不当なものと言うほかはない。」(末尾資料1)


8 このように、使用者がたとえ都道府県労働委員会の救済命令に対し中央労働委員会への再審査申立てをしても、あるいは救済命令取消し請求の行政訴訟中であっても、再審査の結果、初審命令が取り消されるか、あるいは労働委員会の命令を取り消す判決が終局的に確定するまでは、救済命令は一応適法なものとして有効であり、使用者は救済命令に従わなければならない。
救済命令不履行が「労働法制の根本を否定する違法、不当なもの」であり、強度の違法性を有する行為である(再審査申立て等をする場合でも、命令に従いつつ、その取消しを求めなければならない)ことに疑いの余地はない。


9 しかるに、冒頭に指摘したように、不当労働行為の救済を命じる初審命令を履行しないばかりか、不履行を堂々と開き直る使用者が後を絶たない。
  すなわち、不当労働行為救済制度において、本来の趣旨である迅速な救済措置が実効性をもって実現されていない。


10 そこで、貴労働委員会が使用者に対し、命令書交付等のあらゆる機会を通じて、
① 初審命令には、中央労働委員会への再審査申立てをしても、あるいは救済命令取消し請求の行政訴訟中であっても、使用者に履行義務があること、
② この履行義務を果たさす、救済命令に従わない使用者の態度は、命令に関しての履行確保規定や命令違反に対する制裁規定がなくとも、「労働法制の根本を否定する違法、不当なもの」であり、強度の違法性を有する行為であること、を周知し、徹底させることを強く求めるものである。


11 加えて、貴労働委員会が、労働委員会規則第45条第2項に規定された、命令を発した労働委員会会長による初審命令の履行に関する使用者からの報告請求を最大限活用して、初審救済命令の履行状況を的確に把握するとともに、「不当労働行為企業を『公共事業の指名から排除』する旨の総評全国金属労働組合大阪地方本部あて大阪府知事の回答(昭和48年(1973年)7月24日付け)」(↑の写真)を踏まえ、大阪府と連携し、初審救済命令の不履行を野放し状態に放置せず、団結権侵害の迅速な回復が図られるよう、適切な対応を取ることを強く求める。


12 なお、労働委員会規則第45条第2項に規定された、貴労働委員会会長による初審命令の履行に関する使用者からの報告請求の運用の実態及び「不当労働行為企業を『公共事業の指名から排除』する旨の総評全国金属労働組合大阪地方本部あて大阪府知事の回答(昭和48年(1973年)7月24日付け)」(別紙)の「1.」に規定された貴労働委員会による大阪府知事に対する労働組合法違反についての処分通知等の発出の実態についてご教示願います。


以  上

 

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