福祉・医療退職勧奨・退職強要

1ヶ月で看護師を退職強要した訪問看護ステーションとの闘い

 まともな研修や指導もなく、1ヶ月で退職強要された大阪の看護師さんの労働相談を団体交渉で解決した事例を紹介します。ご本人の原稿です。

はじめまして…

なかまユニオンにお世話になりました若菜(仮称)と申します。今回、退職強要・不当解雇に対して、井手窪さん、角野さん、高橋さん、また、私と一緒に組合加盟した夫にはお世話になりました。2回の団体交渉を行い、不本意ながら退職となったものの、会社側からの謝罪と解決金支払い、今後の労働関係法令の遵守と再発防止に務めることを約した合意に達し、勝利解決することができました。入社後たった1ヶ月目で起こった解雇や団体交渉の内容について、経緯を報告します。

期待を抱いて訪問看護の世界へ…

私には小さい頃からの夢がありました。それは「病める人の一番傍で力になりたい」という思いです。家族の闘病生活を子どものころから支えた私自身の経験から看護師を目指すようになりました。「その人らしさを重視した自宅での看護に力を注ぎたい」という夢を抱き、6年病棟勤務を経て、2023年6月に念願の訪問看護ステーションみんなハウス(以下みんなハウス:仮称)に就職しました。

面接時に、正社員雇用の希望を伝えたものの、「病棟と訪問看護ではギャップがあるからすぐに辞める方も多いので、パートの方が気楽だと思うので6月20日まではパートでのスタートにしましょう。」と正社員雇用を口約束したパート雇用でスタートしました。その時は気づきませんでしたが、会社から雇用に関する書類は1枚も渡されませんでした。これが違法だということは、その後、なかまユニオンに加入して知りました。

「丁寧な研修」はどこへ…

はじめての訪問看護の仕事で不安もありましたが、会社のホームページの職員募集欄には「丁寧に研修しますので、安心してご応募ください。」との文言があり安心していました。しかし、いざ入職してみると「1回訪問したご家庭のことは1回で覚えて下さいね。」「何十件もあるので2週間位で多分全員は回れると思います。」と指導されました。願っていた丁寧な研修とはかけ離れていて、即戦力を求められる職場でした。

私は病棟の経験しか無いため、在宅看護の違いで特に注意するべき点などを確認しましたが、先輩からは「見て覚えて」と言われました。他の社員の方に長年いる方は何名居るのかと聞くと、「半年続いている人は居ないみたい。私は先月から入ったからあまり知らないけど。」という言葉に不安もよぎりましたが、頑張ろうと思っていました。

トラブルに何の指導も無し

入職後2週間が経ったある日、ひとりで訪問することが2回目の患者さんへの看護技術で困難なことがありました。それは尿道カテーテルの挿入で、出し切れていない尿の排泄介助のケースです。暴れる認知症の方だったのですが、カテーテル挿入しようにも足を閉じてしまう状況でした。そのため壁側を向いて頂くという病棟では経験のない方法での排尿介助でした。やっと入れたカテーテルからは膿が出てきました。この方は排尿後膀胱炎のため膿は出るのですが、「最初から出るのは脱水からか」という判断をし、飲水や点滴などを相談しました。その場で相談したものの、何の指導もありませんでした。後々になりこの事は入社歴の長い先輩看護師から私のミスだと言われました。看護師としての能力を欠けている、とまで言われてしまいました。

6月18日、後3日で正社員だという意気込みで出社したものの、なぜか挨拶しても返事がなく、いつもより早く訪問先へ行くよう指示されました。そして、お昼休みに上司から呼び出しがあり「数名の看護師からあなたは看護ができていないと報告が上がっている。患者さんからもクレームがある。自覚しているか。」と、問われました。私の全身の血の気が引くのがわかりました。「ミス?クレーム?そんなの指導もされてないし、聞いてないし。」と身に覚えがない事でした。「不慣れな中、手際は良くなく患者さんに迷惑をかけていたとは。」と罪悪感でいっぱいになりました。

正社員採用の先延ばし…

そして、上司から「6月21日から正社員の話は1ヶ月見送ろう」と言われ、私は不甲斐ない気持ちの中、しかたなく承諾しました。「あと1ヶ月間もっと頑張ろう」と強く思いました。上司からの発言の内容を確かめるべく、看護師の先輩2名にその日言われた内容をLINEで送りました。すると、1人は既読無視。もう1人からは「すぐに(看護師上司)2人で事務所に行く」と言われました。待っている間に出来なかったことや、難しいと感じた事、その対応策をできなかった悔しさで涙が自然と流れました。看護師上司が到着し、ことの旨を伝えると「若菜さんはまだ入ったばかりで、手際はあまり良くない所やミスがあるのはしょうがないと思って見守っている。今後はもっと気軽に相談してください。最善の看護を提供していこう。」と励まされました。しかし、クレームの有無や、看護の不手際については特に何も言われませんでした。

パートと正社員では、給料が約2倍違いました。パートは訪問実績件数で給料が計算されていましたが、この日以後、訪問件数の割り振りが約半分に減らされ、軽症の方メインでの訪問となりました。しかし、軽症だからと軽視はせず、慎重に全身の観察や精神状態の変化からの今後の看護を考えていき、看護提案や相談の回数を増やすようにしました。

転倒の第一発見者になったことで、事態が急変

そんな中、7月5日に看護師の常駐している施設内で転倒があり、私がその第一発見者となったことで私の人生が大きく変わりました。

施設内にある個室のベッドサイドで寝転がった状態から動けず、あまり大きな声も出せない患者さんなのでいつからこの状態だったのか分かりませんでしたが、私はすぐに応援の要請をしました。隣の部屋で対応中だったスタッフや、施設看護師がすぐに集まり分担して対応しました。その間、みんなハウスの上司に報告の連絡をしました。ところが、不機嫌な様子で矢継ぎ早に捲し立てられ、私の対応には不安があるので他の看護師をその場に向かわせるから、引き継ぎして次の訪問先に向かうよう指示がありました。

その日の訪問が終わり、事務所へ戻ると看護師の上司が「何か言うことないの」と冷たく言い放ちました。転倒転落について報告すると「看護師として向いていない。あなたの看護には不安がある。」と、私の看護師人生や人格を否定されました。さらに、転倒転落については看護師の常駐している施設であっても私が主導権を握り指示する立場でなければならない事、今回命に関わることがあれば全て私に責任になると言われました。

え?クビ…

情けなさでいっぱいになり、「即戦力になれていない私は、もっと他にゆっくりと訪問看護について学んでいく場所の方が合うのでしょうか?」と、相談したところ、何か気に障ったのか、物凄く怒った口調と顔で「ここは皆親切で丁寧に教えてくれて、残業も極力させないようにしている。あなたの事は受け入れない。仕事は減らされ、やりがいのない仕事だけ回ってくる職場に行きたいのだったらそうしたらいい。」と言い放たれました。そしていきなり「ボス(上司)が呼んでいる」と言われ、向かうと「7月20日が給料の締め日やから、その日でうちとは線引きしよか。」と言われました。私は「これはクビという事か。私は本当に何も出来ていなかったのか。迷惑ばかりかてたのか。」と自分を責めました。

帰宅し、夫に相談したところ「それは不当解雇だ」と、私の看護能力についても肯定してくれ、どうにか一矢報いたい思いで相談先を検索しました。すると、なかまユニオンにたどり着きました。電話で事の経過を話すと、話を面談してしっかりと聞いてくださることとなりました。不当性がある事も言って下さり、安堵もありましたが、上司からの人間性の否定もあり、まだ何とも言えない複雑な感情でした。

翌日上司からは退職について、1ヶ月前に伝えるべきところを間違えて伝えたようだとLINEがありました。そして8月2日で退職という旨の話をされましたが、返答はまだ控えると伝えました。

なかまユニオンに相談…

7月10日、1歳の息子と夫を伴ってなかまユニオンの事務所を訪問しました。角野さん、高橋さんが話を聞いて下さり、今後どうしたいかと言う話になりました。私は自信の喪失と将来への不安があり、続けたいという気持ちを中々言えずにいましたが、私が直面している事は、退職強要をされているという状況だと客観的に分かり、夫も「どうにか一矢むくいたいです。」と言ってくれ、対策を練りました。

相談を通じて、みんなハウスは違法行為をしていることも分かりました。また、正社員をチラつかせながら体良くパートで雇う企業は悪質なのだと分かりました。ミスの内容やクレームについてはでっちあげではないかと聞き、看護師として自信をなくしていた私はとても救われた気持ちになりました。そしてまず、辞める意思は無いと伝える事となりました。

団体交渉申入れ…

7月12日、みんなハウスの代表との話し合いでは、「ミスがありそのため1人では私を訪問に行かせられない。そのための人員が必要となるがそれできる力がみんなハウスには無い。」と退職強要されました。帰宅後、この経過を角野さんに相談し、もう一度きちんと退職の意思は無いことを伝えるようにとアドバイスを頂きました。その後、何度も退職には同意できない旨を伝えましたが、会社の意向は変わらないため、組合加盟通知と団体交渉を申し入れました。

事実を踏まえない暴論に怒り

団体交渉とは何か分からない私に、交渉前にどのように進めていくかの細かな点の確認をして下さったため、思っていたより前向きな気持ちで団体交渉に臨むことが出来ました。8月3日に第1回目、みんなハウスは弁護士に丸投げの形で始まった団体交渉は、井手窪さん、角野さん、高橋さんと、私の夫が同席しました。みんなハウス側は、カテーテルの件と転倒転落の件から、私には看護師としての資格は無いと言い放ちました。その他にも、弁護士側が用意した文章の多くは誇大表現や事実とかけはなれたことが多く、私はそのことに対して悲しさと怒りを感じ、反論しました。会社側弁護士は、持ち帰り事実確認をしますという返答ばかりで1時間もしなかったのですが、緊張した中でしたので長く感じました。

団体交渉で、井手窪さんが労働法規に基づいた反論。弁護士側は分かっていないような反応でした。「団体交渉の場に出てきているのにそんなことも知らないとはどういうことか。」と指摘しても弁護士は沈黙でした。角野さんは私が質問に受けやすいように、また返答を整理して発言してくださいました。高橋さんは、弁護士側がマスク越しでもわかるほどニヤついていたので、強く注意して下さり心強かったです。

2回目の団体交渉に向けて…

第1回目の団体交渉が終わり、弁護士側から送られてきた反論文書には、解雇が正当であるほどの業務上のミスがあったことを長文にまとめていました。そして、私が復職を望むのなら、訴訟の場で判断を仰ぐことや、高額の解決金を支払う意向はないと書かれたものでした。

一つ一つ丁寧に反論をしていくため、対策を井手窪さん、角野さん、高橋さんと夫と練りました。また、角野さんは知人のベテラン看護師から意見を聞いて下さり、私のミスについてどの程度のレベルなのか、客観的に見てもらえました。「看護師の経験年数に限らず看護現場では良くある。」ことを調べていただけました。今後裁判になった時のことも見据えて意見を聞いて下さり、とても頼もしく色々と対応してくださいました。

事実で反論

第2回の団体交渉では、会社が提出してきた解雇理由に対して一つ一つ反論。私の1時間にも及ぶ反論と、井手窪さんの弁護士への圧が凄かったです。また、角野さんは、医療現場の現状や訪問看護の社会的意義をふまえた私の看護能力の高さを訴えつつ反論して下さったこと、この事はとても有難く涙が出そうになるほど嬉しかったです。また、採用方法に違法性があることを追求したところ、その場で弁護士もそれを認める発言を引き出すなど、私や組合の主張を全面的に認めさせる団体交渉になりました。

みんなハウスが全面的に非を認める

その後、なかまユニオンに解決合意の打診連絡があり、合意書案が送られてきました。本件についてみんなハウス側が謝罪し、以後労働関係法令を遵守し、再発防止に務めることを約束するという言葉が入っており、みんなハウス側が全面的に非を認めた結果となりました。

人生で初めて、労働組合に入り自分の経験を通して、いかに自分が労働する側として無知であることや、闘うことが出来る事を知りました。この経験が、他の方にも力になれればと思います。

最後に…

最後に、井手窪さん、角野さん、高橋さん、また組合員の私の夫も長い期間私を精神的にも支えて下さりありがとうございました。最初は周りから諦めた方が良いと言う声もありましたが、諦めずに闘い抜けたのは皆さんの支えがあったからです。細く頼りない木でも、その周りの支えがあれば、強風にも抗うことが出来ると感じました。

この文を読んでくださった皆様も、自分が悪いから…や、自分の能力が無いから…などと思わずに、なかまユニオンを沢山頼りましょう。なかまユニオンには力強いなかまがたくさん居ます!

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