福祉・医療

介護学習会 黙示の残業命令

介護福祉つながる交流会 「黙示の命令による残業」について学習

なかまユニオン介護福祉支部

 2023年4月20日、なかまユニオン介護福祉支部はつながる交流会を開催しました。今回は、残業時間についてミニ学習会を実施。4月から月に60時間以上の残業が50%割り増し賃金になったことと、「黙示の命令による残業」が残業代がもらえないことが多いという問題について考えました。

「黙示の命令による残業」というのは聞きなれない言葉です。「黙示(もくし)の命令」というのは、はっきり言葉にしていないんだけど命令しているという状態のことです。「こんなこと言われないとわからないんか。しないといけないに決まってるやろ。」みたいな言われ方をしたことがありませんか。これが「黙示の命令」ということです。

 法律上は残業代は、「残業しろ」という命令があった時にはじめて発生するものということになっています。労働者がまったく自分の都合だけで時間外に仕事をしても、それは残業代を請求することはできません。しかし、「毎日の業務を回せ。そのために必要なことは自分の頭で考えて、言われなくてもやれ。」ということにあらかじめなっていた場合に、業務を回すために労働者一人ひとりが判断して残業をしたらどうでしょうか。「残業しろ」という一言は無かったとしても、「黙示の命令」があった残業だとみなされ残業代が発生すると考えるのが妥当なのです。

 介護・医療の職場では、始業前に早く来て仕事をする「前残業」に残業代がついていないことが多いのです。しかし、実際には「言われなくても業務を回せ」という「黙示の命令」がある場合がほとんどです。

 交流会に参加した松川さん(仮称)は、「たしかに自分の職場でも、夜勤の時に1時間も前に来て仕事をしている人がいる」と言います。「仕事が始まる前に、利用者さんの状態を確認するために早く来るんです」と。利用者さんの状態を確認するのは業務の一環です。それを実行するのは立派な労働時間と言えます。しかし、早く来るのが当たり前の習慣になっているため、誰も残業代を請求していないのが実態です。

 箕面にある神明会の介護老人保健施設ラ・アケソニアの労働者16名が、そんな未払い残業代の支払いを求めて裁判を起こしました。5月25日午前11時30分から大阪地方裁判所の404法廷で裁判が行われます。つながる交流会では、みんなでこの裁判の傍聴に行って、前残業に残業代がつくのが当たり前の社会的な雰囲気を作っていこうという話になりました。

■資料 学習会・黙示の命令による残業 介護福祉つながる交流会

2023年4月20日

◆60時間以上の残業代が値上げ

 今年の4月から、全ての事業所で、1か月に残業が60時間を超えた場合には、時間外割増賃金率が50%になりました。通常の時間外割増賃金率は25%です。

 60時間を超える残業を深夜に行った場合には、時間外割増50%+深夜割増25%で、合計で75%の割増となります。

◆60時間以上の残業は健康を害するのに自分では止められない

 厚生労働省によると、これまでの医学的な研究の中で、残業が1か月に60時間を超えると脳出血や心筋梗塞や精神疾患になるリスクが高くなることがわかっています。

 また、財界のシンクタンクであるパーソル研究所の研究では、残業が60時間を超えると過酷な仕事を「幸せ」だと感じる人が増えるという統計が出ています。これは「ワーカホリック」(仕事依存症)という状態で、仕事のし過ぎによるストレスによって脳内に快楽物質(脳内麻薬)が異常に分泌されるためだと考えられています。ますます自己判断で「残業をしたい」と感じてしまいます。

60時間以上の残業は、過労死のリスクを高めるにもかかわらず自分では残業を止められない状態になるわけです。そのため、法律によって規制するしかないとなってきたわけです。

◆前残業は多くの場合「黙示の業務命令」による残業

 介護・医療業界で問題になっている「前残業」ですが、前残業には残業代が支払われないことが多いのです。経営陣に言わせると「早く来て仕事をしろという業務命令は無い。自己判断で早く来て仕事をしているだけだから、残業代は発生しない」となることが多いのです。

 労働基準法の解釈では、賃金が発生する労働時間とは「管理者の指揮命令下で労働した時間」のこととされています。「指揮命令下」とは業務命令が発動しているということです。しかし、はっきりと「残業しろ」と言っていなくても、残業しなければ業務が成立しないと判断せざるをえない状況に労働者を追い込んだ場合には、残業をしろという「黙示の業務命令があった」と考えることができます。「黙示(もくし)」とは「黙っていてもわかるだろう」と暗に指示することです。

◆始業前の準備は、立派な労働時間

 病棟で勤務する看護師の場合、「始業時間前に来てカルテを読んでおくのはプロとして当たり前」だと、だから残業代は出ないと言われることが多いのです。しかし、「プロとして当たり前」なら、それは立派な労働ということです。本来なら、始業時間に来てからカルテを読む時間が保証されるべきなのに、始業時間前に来いということになっているのですから、残業代がもらえて当然です。

◆作業の前倒し実施が業務を回すうえで必要なら、それも立派な労働時間

 神明会ラ・アケソニアでの残業代未払い事件の話を聞くと、夜勤帯に行うことになっている雑務を夜勤入りの前に前倒しで実施する、そんな前残業に残業代がついていないそうです。

 夜勤帯には頻繁にトラブルが発生するので、夜勤帯にすることになっている雑務を事前にやっておかないと大変なことになってしまうからです。この場合、職場全体の業務を回せという命令に基づいての労働者の自己判断があるわけですから、「黙示の残業命令があった」と考えられます。「命令したつもりは無い」などという理由で使用者が責任を逃れるのはおかしいことです。

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